山賊ヴァンクス の らっきーくっきーもんじゃゴホッゴホッ

ここは大規模MMO マビノギ にて活動するある一人の山賊(砂賊)の日々の出来事を徒然なるままに書き綴った個人ブログです。

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彼の夢[第2話]

目覚めた。その瞬間、耳には小雨の音が入ってくる。
朝だというのに太陽は黒い雲に隠され、雨が降るのに合わせて土の臭いが立ち昇る。
ここは、なにもない一軒家。彼の家。
彼、とはそのままの意味である。三人称単数、赤の他人、名も無き人物。
彼は、名前を持たない。いや、持っているが、持っていないに等しい。
そう教えられた。
誰に?
彼自身にである。

彼は、夢を見る。
それはひどく奇妙で、滑稽で、そしてつまらない。
瞑想に近く、熟考とは縁が深い。もちろん現象としては夢である。
だがどの言葉でも明確には表せない。
夢を見る、とは断言すべきではない。
“夢のようなものを見る”が、尚のこと正しい。
だが正解ではない。
より解釈として間違いが発生しにくい。そういう意味で、正しい。

朝、この小雨の降る中、彼は上半身を布団からはずし、起き上がる。
後頭部をポリポリと掻きながら、なにを見たかを思い出す。
人は起きると、ほとんどの場合、さっき見たばかりの夢を忘れてしまう。
どんな夢だったか、思い出すことができない。
だが彼の場合、それが容易である。
なんということはない。今読んでいる本の字を頭に思い描くがごとく、彼は回想する。
いや、回想すらしない。
夢の中で、彼は意識を保ったままでいることができる。そうしてゆめの中で起きる出来事をその身で感じるように体験する。
だが現実に引き戻されたとき、そこに夢の中で起きたことは反映されていない。
時々、そうした非現実と現実の流転が、彼に悪い後味を残していく。
あるいは、とても幸福感に溢れた、「よかった」「安心した」という気持ちを湧き上がらせる。
そのどちらも、彼はその場でそう感じてはいるものの、嫌いでも好きでもない。
ただ、彼はこうした自分の能力とも言うべき力が、貴重であり、興味深いものなのだろうと、自己解釈する。


故に、彼は嫌でも夢の中のことを思い出し、それをある日記に書き綴る。
「夢日記」と呼んでいる。
今、また一つ、彼の夢の中の出来事が書かれた。
山賊になった自分が、それもとても奇妙なプロフィールの自分が、山里へ降りていく、そのたった数分間の短い夢。
ひどく素直でなかったことを覚えている。

一体どうしてそんな夢を見たのか、それは彼がいつも抱いている疑問だが、まったく答えらしきものは浮かんでこない。
彼はその疑問の答えが出てこないことを知っている。
わからないという以前にわかろうはずもない。たとえ今この場で「こういうことですよ」と言われても
彼には理解ができない。
そう、彼は悟っている。

だから、彼は記録しつづける。自分が見た夢を。
もういくつ書いたかもわからない枚数の夢日記。だが自然と紙だけはまだなくなりそうにない。
それでいい。それでいいのだ。
なくなるのがいつになるか、彼にはわからないが、なくなったときに記録をやめればいい。まだ自分は若いのだから、とも思うし。

ふと、思い立って、彼は最初のページへ戻った。
今まで見てきた夢を、少し読み返してみる。記録は簡素で、自分はなにで、どんなことをしたか、というものだが
それだけで、彼はその夢を思い出すことができる。懐かしい卒業アルバムを見て、そういえばこんなことがあった、と懐古するように。

彼は、あるページで手を止めた。
そう、こんな話があった。

―――

彼は白い地面に立っていた。
自分は白装束で、辺り見渡す限り白に埋め尽くされた世界。
眼が痛いと思えるほどに、白一色は彼の眼を突き刺し、半目のまま、彼はそこに立ち尽くしていた。
人の気配はしない。
動物も、植物もない。
生命の気配がしない。
彼はどうしたものかとそこに立ち続けていた。
目的もなく、その場に取り残されて一体どうしろというのか。
考えるだけ無意味である。だがなにかある、そんな気がして彼は考える。
白い世界。
死後の世界とはこうした場所なのだろうか?
なにもない。独りだけの、薄い次元。
彼は足元を見る。
足が見える。自分の5本の指がついた足が見える。
では死んだわけではないらしい。どうやらここも、夢の中のようだ。
だが、なぜこんな夢を見ることになったのか、それがわからない。
元々、今まで見てきた夢に現実と関連性のうかがえるものなどほとんどなかったが、今回はまたかなり関係性を欠いている。

立つのをやめ、地面に寝転がる。
地面は堅く、冷たく、そして平面だった。
空も白い。雲はなく、青空もなく。ただ白い光だけが見え、それ以外の色は全滅したように確認できない。

夢の中で寝るとは、おかしな話だ。事実、なぜか寝ようと思っても寝付けない。
目蓋を閉じても、眠気はやってこない。
今までそうしたことがなかったが、実際にやってみると本当にできないから困ったものだ。
こんな夢ならば、早く目覚めてしまったほうが楽だというのに・・・

ふと、彼は思いついた。
もしかすると、これは「無」を表した夢なのではないか。
その途端、自分が寝転がっていた地面が消え、体が一気に下へ引っ張られた。
落ちる体。だが動揺はしない。このまま落ちて、剣山に串刺しにされる心配は起こらなかった。
思考に呼応する夢とは、また珍しいものだ。
なんせ、これは夢であって夢ではない。夢のようなものなのだから。
だが、もし無を表す夢だとすれば、この体を引っ張る力も無い。ということになる。
そう考えるが早いか、体を引っ張る力は失せた。
その代わり、彼はあらゆる方向へ体が動き、乱回転しはじめた。
もはや、どこが上なのか下なのかが判別できない。目の前は白に埋め尽くされ、体が不定形な形へどんどん回転していく。
そう、これが無なのか。
いや、果たして本当にこれは無なのか?
まだ、有が隠されているのではないだろうか。
彼は体の回転があることに気づいた。
すると、それがなくなり、彼の体は回転することをやめ、急に動かなくなった。
手足、指先一本、眼球すら動かせない。口の中で舌を蠢かせることも、喉を鳴らすこともできない。
お腹が凹凸を繰り返すことをやめ、呼吸が止まった。
彼は苦しいと思った。そして、この苦しさがあることに気づいた。
すると、苦しさが消えた。そうして、変な感じを覚えた。
寿命が迫った電球のように、目の前が白だったり黒だったりとチカチカしだした。
この明滅がなにを意味するのか、考えるのに時間はかからなかった。
彼の視界がチカチカするのが止んだ。
彼は死という現象があることに気づいたのだった。
そうして、彼は静かな状況に気づいた。
死もなく、苦痛もなく、力もなく、この3つが消えるだけで、ひどく閑散とした世界が現れる。
やがて彼は、生きるということに気づいた。
それがなにを意味するのか、彼が気づくより早く、それは起こった。
彼はいなくなった。だがそこにいる。
死んでいるのでも、生きているのでもない。
彼はその肉体が骨だけになっているのを悟った。皮膚の感覚が消え、筋肉の収縮もなく、心臓が動いている感覚も消えた。
ただの骨と化した。それはつまり物体として姿を変えたということだった。
もはや彼は、人間でいう魂の状態で、その場に張り付けられたように動かなくなった。
だが頭の中に考えが浮かぶように、彼の思考と呼べる機能は失われていなかった。
全身から感覚というものがなくなったのがわかるし、なくなった感触を感じることができた。
まるで全身が生クリームの海に埋もれたように、全身から力が抜け、どこからどこまでが自分の体なのかもわからず、目の前が真っ暗になった。
痛みが無かったのは、その前に苦痛を無と化していたからだろう。
目の前は真っ暗で、何も見えない。
先ほどの真っ白と打って変わって、今度は永久の闇が広がっている。
彼は、ついにそれに気づいた。
色、黒い色があることを、彼は知った。
すると、一瞬、目の前が虹色で埋め尽くされた。そしてまた一瞬で、それらは消えた。
あとに残ったのは、なにもない。色の無い世界だった。
色のない世界とはなにか?
言葉で表すことはもはや不可能だ。だが、最も近い例を挙げるならば、それは人が寝て、夢を見るか、目が覚めるか
その寝ると起きる、夢を見る、の間の空間のことだ。
すなわち、時間という感覚が消えた、まったく認知できない空間。
なぜなら色は全て光だからである。光の無い世界とは、時間を、物体を感じることができない。つまり、そこには純粋な空間のみがある。
彼はそれを目の当たりにした。
もはや目はないが、自分が思考を行っている今この瞬間も、ものすごい速さで時間が過ぎ去っているような錯覚を感じることができた。

もうなにもない、と思い始めたとき、彼はとうとう、自分という存在に気づいた。
ここまで長い間、その存在を忘れていた。
肉体は滅び、感覚はなくなり、死も捨て、生きることも捨てて、「何か」と化した自分が、まだここにいる。

ついに、自分という存在が消える。

はずだった。

だが

消えない。

いつまでたっても、思考という機能が失われない。

なぜか?

なぜ、自分だけが消えないのか?

答えはない。


なぜ、という言葉、どうして、という言葉。
渦巻き、流転し、螺旋を描き
未だ答えはでず、見つかる気配すら見えず
彼は思考の渦に巻き込まれていた。
だがふと、彼はついに悟る。
人とは、何か。
人である自分は、何か。

彼は、彼を知らなかった。

彼は彼自身でありながら、彼本人のことを知らなかった。

自分という存在は、どういうもので、どういうことなのか、わかっていなかったのだ。

それは理解できるものではなかった。

なぜなら、彼は彼でありながら彼ではないからである。

昨日の彼が、彼という存在か?

明日の彼が、彼という存在か?

今の彼が、彼という存在か?

どれでもない。

彼は彼であり、彼ではない。

時に彼であり、時に彼ではなくなる。

何面性を持つか知れず、何通りの可能性を秘めているかも知れず、故に、定まらぬ存在。

なにかとわからぬものを、彼は気づくことも、認知することも、理解、認めることもできるはずがない。

そう悟った彼は、目覚めた。


夢は、そこで終わった。
その日の朝は、寒い冬の、白い雪が積もる朝で、音を消した雪たちが、朝日に輝いて溶けた水となって滴り、また音を生んでいる時だった。
彼は、目覚める間際、ひとつだけ、何かを見た。
有といえばいいのか、わからぬ、たった一つのもの。
それは
目蓋の裏に隠された
身近な
宇宙だった。

もしかしたら・・・
あの夢は・・・
彼が知っているものを・・・
消していく夢だったのかもしれない・・・

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